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住宅業界が今考えるべき「その時」のこと

2016年10月12日

■住宅業界は活況 その理由は?

世の中、景気が良いのか悪いのかよくわからない状況ですが、少なくとも住宅の着工は好調のようです。

国土交通省の発表によると8月の新設住宅着工戸数は全体で8万2242戸で前年同期比で2.5%の増加。なかでも賃貸住宅あg9.3%も増加していてこれで10か月連続の増加、また持ち家も4.3%の増加でこちらも7か月連続の増加です。

実は今、住宅価格自体はじわじわと上がってきています。これは住宅の断熱や耐震などの性能向上にともなって部材価格が上がったり、工事をする職人さんらへの労務費が上がっているからです。

一方、購入サイドを見ると、そもそも人口が減っているのに加えて、住宅購入世代の所得が劇的に増えているわけではありません。そう考えると、なぜそんな状況なのに住宅着工は増えているのだろうか?と思いますよね。

答えのひとつとして考えられるのは、「住宅が買いやすくなっているから」です。

ニッセイ基礎研究所のレポートによると、2008年と2015年の東京のマンションの平均販売価格を比較すると、5,993万円→6,779万円と786万円も上昇しています。しかし、住宅ローンを含めた住宅購入のための支払い総額は、8,920万円→8,450万円と逆に469万円も少なくなっています。

これは住宅ローン金利が低くなったからですね。住宅ローン利息額の平均は2008年が2,927万円だったのに対して、2015年は1,671万円と大幅に減っています。金利差を計算するとおよそ1%以上も下がっていることになります。

つまり、2015年にマイホームを買った人の方が、2008年にマイホームを買った人よりも「より良い家をより安く買えている」と言えます。この「金利の低下」は今のマイホーム需要を押し上げている要因のひとつであることは間違いないと思います。

実際、住宅ローン金利はとてつもなく低くなっています。先頃発表された2016年10月の10年固定型の適用金利では、みずほ銀行が年0.7%、りそな銀行が年0.75%、三井住友銀行が年0.80%、そしてなんと三井住友信託銀行では年0.45%です。

すごい水準ですよね。全期間固定のフラット35でも1%を下回っているものがあります。

 

■住宅ローンを借りると家計が潤う?

「マイナス金利」という言葉が広まっています。

マイナス金利ということは「預金をしたら家計のお金が減る? 借金をしたら逆に家計のお金が増える?」と思いますよね。いや、さすがにそんなことはないのですが、ただ、住宅ローンにおいては、一定の期間、実質的にマイナス金利状態になる人がいます。

これは以前も書きましたが、「住宅ローン減税」のことです。

住宅ローン減税は当初10年間、住宅ローン残高の1%を上限として、その年に支払った所得税(一部住民税)が戻ってきます。

例えば、年収600万円の人が3,500万円の住宅ローンを30年間借りたとします。そして当初10年間の平均金利が0.9%だったとしましょう。

そうしますと、当初10年間のローン利息の支払い総額は、約268万円。一方、住宅ローン減税で戻ってくる所得税の還付金は、約292万円です。

差し引き24万円のプラスですね。

今は「ローンを借りた方が家計が潤う」というケースがあります。これって実質マイナス金利ですよね。

このように、マイホーム購入を検討している人にとっては「今でしょ!」感(←ちょっと古いですが)がすごくあるんですよね。

そして住宅業界も今はこの恩恵を受けているわけです。

しかし、この先のことを考えると住宅業界は安穏とはしていられません。「今が良い」ということは、状況が変わったら一気にお客様がいなくなる可能性もあるわけです。元々人口は減っていて、マイホーム購入世帯自体は減っているわけですからね。

 

■この先、住宅業界は、いつ、どうなるか?

以下は私の勝手な思い込みです。

私は今、実は景気はそこそこ良いと感じています。

日銀は物価上昇が安定的に2%のマイルドインフレになる状態を目指しています。その物価がなかなかプラスにならない、つまり消費が回復していない、だから景気が良くなっていない、と一般的には認識されています。

しかし、世間を見ると結構みんな消費行動そのものは以前と変わらないように感じます。変わらず世間は賑やかで、新幹線も飛行機も混んでいるし、全国の宿泊施設もしっかり混んでいます。失業者もほぼいません。

もし消費機会は増えているのに、消費総額が増えていないとなると、それはつまり単価が下がっている、ということになります。

これは恐らくその通りで、モノやサービスの単価は下がり続けています。

その要因は様々ですが、ひとつはネット取引の普及と物流の合理化でダイレクト取引が増えて中間流通コストが削減されていること。衣料品や家電製品などが顕著が例ですね。これは社会構造が効率化された結果であって、総じて悪いことではありません。

もうひとつはよく言われているように原油価格が大変安い水準で安定していること。こちらはもしかしたらもう間もなく終わるかもしれません。先日OPECでようやく生産調整の合意がなされましたが、その結果として、もしかすると原油価格は緩やかに価格が戻っていくかもしれません。

そうなると日本の物価も上がります。物価が上がってくると日銀は目標が達成できたことになりますから、今の異常な金融緩和も緩やかに出口に向かって終息を迎えていくことになるでしょう。

この時が金利の上昇タイミングです。

さらに2019年10月には消費増税の時期が来ます。次はさすがにもう先送りは出来ないでしょう。さらにさらに、2020年には東京オリンピック、住宅業界は省エネ性能の義務化が実施されます。これらのことは住宅価格の上昇要因ですね。

 

まとめますと、今はまずまず景気が悪くないところに、異常なまでの低金利が続いているから住宅業界は良好なわけですが、しかしこれから2~3年の間に、金利上昇、増税、労務費と部材単価の上昇といったマイホーム購入においては逆風となるような状況が立て続けにやってくる可能性があるわけです。

「その時」住宅メーカーや工務店、不動産事業者はどのように生き残っていけばよいのでしょうか?

そこには様々な方向性と可能性があるはずです。準備している会社は着々の「その時」に向かって準備をしています。住宅業界各社の戦略的な取り組みについて私たちもよく見ておきたいと思います。

 

今回は以上です。

(ハッピーリッチアカデミー カワセ君のコラム 2016年10月4日付253号より)