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「消費が落ち込んでいる」ってホント?

2016年11月17日

いつもありがとうございます。ansの川瀬です。

今回は「消費について」です。

 

GDP(国内総生産)のおよそ6割を占める個人消費。その消費が「家計が節約志向を強めていてなかなか消費が伸びていない」として、経済成長を志向している安倍政権は企業に賃上げを迫ったり、景気対策を導入したりと消費を活性化させることに躍起になっていますね。

さて本当のところ、今の日本の消費はどうなっているのでしょうか?

まず、政府が企業に求めている賃上げですが、2016年7月~9月期の実質雇用者報酬は前年同期比3.0%も増加しています。これは1996年以来の高い伸びですが、実は実質賃金は2014年6月~6月期以降ずっと増加しています。すでに2014年の消費税増税前の水準を上回っています。

失業率は3%前半でほぼ完全雇用の状況で、雇用環境は過去にないほど改善が進んでいます。

「所得が増えているのに、消費は伸びない?」この奇妙な状況を受けてよく新聞などでは「将来への不安が強いから家計のサイフの紐は緩んでいません」と報道されています。

しかし、実際の消費額を見ると、確かに増えてはいませんがそれほど減っているわけでもなさそうです。総務省の家計調査によると、1か月の平均消費支出額は以下のように推移しています。(二人以上世帯のデータを基に年間平均を計算)

 

2015年 28.7万円

2014年 29.1万円

2013年 29.0万円

2012年 28.6万円

2011年 28.2万円

2010年 29.0万円

2009年 29.1万円

詳細に月別に見ると、リーマンショック(2008年9月)や東日本大震災(2011年3月)の後に数か月ほど落ち込んだ月もありますが、年間平均でみるとご覧の通りここ数年月29万円程度で変わっていません。

近年のピークは、2014年4月の消費税率引き上げ前月の2014年3月の34.5万円です。駆け込み消費があったからですね。

消費増税後は確かに少しだけ落ちて、28万円前後の月が多くなっていますが、まずまず普通に消費しているように見えます。

 

それでも消費が伸びず、なんとなく景気も回復していないように感じるのは「百貨店の売り上げが落ちている」とか、「自動車や家電が売れない」といった報道を頻繁に目にするかもしれません。

しかし、これは消費が落ちているのではなく、日本の消費の構造が変わっているから起きていることです。

まず、「消費する場所」が変わっています。

2016年11月7日付の日本経済新聞の記事、<消費、なぜ伸びないの?構造変化、通信や食事を重視> に経産省の業態別売上データとともにこのような記述があります。

↓↓↓

『業態別にみると、百貨店の売上高が落ち込む一方で、大きく伸びたのがコンビニエンスストア。最近10年間ではネット通販などEコマースが急激に成長。スーパーの売上高は高い水準を維持していますが、これは食品スーパーが比較的好調なためで衣料品などのも扱う大型の総合スーパーは苦戦しています。』

消費の場所が百貨店や総合スーパーからコンビニ、ネット通販へと変わっています。百貨店の閉店のニュースなどが多くありますが、これは消費が落ち込んだからではなく、百貨店という業態が時代の購買スタイルに合わなくなっているから、ということなのでしょう。また中古品のリサイクル消費やポイントを貯めての消費なども増えていますが、これらはGDPには反映されない消費になりますね。

 

また「消費するモノ」も変わっています。

↓↓↓

『保健医療や交通・通信への支出が80年代と比べて大きく伸びている一方で、被服・履物や家具・家事用品や大幅に減少』(同記事)

加えて、総務省データを見ると家電製品や自動車などの耐久消費財が2014年以降大きく減少しています。これは2009年のリーマンショックの後あたりから政府の景気対策で推進されてきた「家電のエコポイント」や「エコカー補助金+減税」などの買い替え促進策が原因だと言われています。

2012年の地デジ移行にともなうテレビの買い替えもあって、家電製品はこれまでに需要をかなり先食いしてきました。家電製品も自動車もそんなにすぐには壊れませんから、需要を先食いしてしまっている以上、次の買い替えサイクルが到来するまではなかなか耐久消費財の消費は増えませんよね。

「耐久消費財消費」が増えない一方で、保険・医療費、通信費や光熱費、交通費、ホテル代、レジャーや飲食などの「サービス消費」は増えています。

 

確かに、個人消費が安定的に増えていないと日本経済が持続的に成長することはありません。だから消費を刺激するための経済対策はある程度は必要にはなってきます。

しかし、また再びエコポイントのような耐久消費財の購入促進はおそらく効果は限られると思います。むしろ伸びているサービス業分野に向けた生産性向上のための規制緩和や構造転換の方が重要だと思います。

日本のサービス業は先進諸国の中でも特に生産性が低いことが指摘されています。生産性が低いままだと売上が伸びても利益が残りませんので賃金増にも直結しませんからね。

 

いずれにせよ、日本の消費はそれほど悪いわけではなさそうです。国民もマスコミが言うほど縮み志向になっているわけでもなく、それなりに消費もしています。

経済成長は鈍化していはいるものの、経済規模は大きくGDPは世界第3位です。雇用環境も良いのでそれほど将来を悲観する必要もありません。

ただ、消費の構造は大きく変わってきています。その変化に合わせて、国は経済政策を、私たちは働き方を変えていかないといけないのかもしれませんね。

(ハッピーリッチ・アカデミー カワセ君のコラム 2016年11月15日付 256号より)